夕方の空気を肺いっぱい吸った。
どこか懐かしい匂いだと思った。


「げっ特設ステージってこれかよ?思いっきり手作り丸出しじゃねぇか。」


志暢は飾りの折り紙をぴらぴらと引っ張った。


「コラ。商店街の方々が折角作ってくれはったんやから。確かに不恰好で下手くそでゴミみたいやけど文句言うたりなや?…あ取れた。」


「いやお前ら何気なく酷いな。」


さっそく飾り付けを取ってしまった二人に「ちゃんと直しときなよー」と愛梨は声をかける。


3人『ジュエリLOVE』と描かれたはっぴを着ていた。
手にも同様の文字が描かれた団扇を常備し、準備も万端だ。



志暢は夕暮れの空を仰いだ。
樹恵理の言葉が甦る。


『私、夕焼けを見るのがが好きなんです』


良かったな、樹恵理。




「それにしてもスゲェな。いきなり決まったライブでこんなに人が集まるなんて。」


キョロキョロと見回す。
志暢の言葉の通り、商店街の広場に作られた特設ステージには沢山の人が集まっていた。



「まぁ元々地元民に人気のあるアイドルみたいやし?それなりに知名度もあるやろね。」


「そうですね。」


「斎藤」


3人と同じようにはっぴを着た斎藤が現れる。


「樹恵理ちゃんの調子はどう?」


「…万全とまではいかないようですが、ここ一番のテンションだそうです。」


「…斎藤」

「はい」


「…成功するといいな、ライブ」


「…えぇ!きっと成功しますよ。」


「信じてますから。」そう斎藤は言った。



今日は樹恵理の初ライブの日。
樹恵理と斎藤の関係が変わるかもしれない、そんな大切な日だ。


「ほら、始まるようです!」


大好きな曲のイントロが流れ始める。



『キャッハーン!ぷりてぃはぁとぱわぁでみんなのハートをディストラクション股の下からジュエリング☆だよぉ!』

斎藤は微笑む。


「イェイ!!」


樹恵理と斎藤は笑顔でハイタッチした。