それからというもの。
志暢と棗の二人はとりあえず倒れていた少女と愛梨を保健室へ運んだ。


「愛ちゃんは大丈夫みたいやな。」

「…な…棗…」

「ん?」

「チャック開いてる…」

「志暢ちゃーん、やっぱあかんわ頭ヤられてるわこの子。ショック療法や。」


「よしきた。」

志暢が言われるがままに愛梨に殴りかかる。

「…あの…」

「あぁ?何だよお前つーか誰だ?」

教室で倒れていた少女は一足先に目を覚まし、遠慮がちに志暢を制止した。


「…さ…斎藤…です。同じクラスの斎藤かなえ…サイトって呼ばれてます。」

「さっきそこの人、あんたのこと踏んでたで。」

「踏ん…え?」

「いらんこと言うな棗。」


斎藤に真実を教えようとする棗を、呆れながら止める。なんでちょっと楽しそうなんだお前。


「それで?なんで教室で倒れていたんだ?」

閑話休題。いつまで経っても本題に入れない為、志暢は強引に話を進める。


「…この学園にアイドルがいるの知ってますか?」

「…アイドルゥ?あれか?今流行りのスクールアイドル?叶え!みんなの夢!ってやつ?」

柄にもなく声真似をやってみるも、棗からの視線が痛かった為、すぐに止めた。


「いいえ。安樹恵理(やす じゅえり)、という名の我が校一年八組に在籍する新人アイドルのことです。」

斎藤は淡々と述べた。


「っ…うちの学校、アイドルなんていたんだ…」


「で?そのアイドルとアンタが教室で倒れていたこと、どういう関係があるんだ?」


「……………」


沈黙が訪れる。棗の方を見ると、棗は名伏し難い表情を浮かべ、愛梨はあさっての方向を向いていた。

答える気が無いのか、沈黙を続ける斎藤に志暢は多少気遣いながら声をかけた。

「…あー斎藤?だっけ。別に答えたくなかったら無理して答えなくても」


「…擦り付けてました。」


「………何を」


斎藤はプルプルと震えながら答える。


「…頬を」

「……どこに」

「…や…安さんの机に…」


「ただの変態じゃねえか!!!」

「だ、だってあの樹恵理ちゃんですよ?深夜の学校に忍び込んで、樹恵理ちゃんのクラスに辿り着いたのは良いものの、暗闇で途方に暮れて気が付いたら夢の中だったんです…ってどこに電話してるんです?」

説明調の言葉に興味がないらしく、志暢は携帯を取り出すとどこかへかけ始めた。


「あ、もしもし警察ですか。…えぇ匿名でお願いします。…え?あぁ、そうですね。事件ッスね、これは。そう…変態ストーカー事件。」