「あぁちゃん!」

「愛梨ちゃん!良かった…無事だったんだね…!」

「…あぁちゃん?」


隣で聞いていた志暢が首を傾げる。


「前にも言わなかったっけ?私、他のクラスに友達ができたって。あぁちゃんのことだったんだよ。」


「初めまして!2年5組の天野甘です!生徒会の会計やらせてもらってます。」


「ど、どうも…」


あぁちゃんに握手を求められ、どもりながらも志暢は応える。
なんというか、すごくまともっぽい人だ。



「あらあなた傷だらけじゃない…嫌ねぇ血の気の多い人は。」


「…あぁ?」


ゴミを見るような目で見てくる神無月に、棗は最大級のブラックスマイルで応える。



「相当苦戦したみたいですねぇ…大丈夫ッスか?奥口さん、御崎さん。」


「…うるさい。相変わらず口が減らないやつだなお前は。」


「てか里美いつまで縄グルグル巻きなの?好きなの?」


西谷の冷やかしにイライラとした表情を浮かべる里美を、御崎が茶化した。



それぞれが知り合いだったり、初対面だったり好き放題言う中、城土は腕を組む。



「…お疲れ様でした奥口さん。」


「…お前に礼を言われる日が来るなんてな…」


「いえ。とにかくご無事で何よりです。」


年上はきちんと敬うのが城土のスタンスなのである。



「改生労働会副部長 高蔵志暢…」


城土に名前を呼ばれ、志暢は向き直る。


「生徒会執行部副会長 城土星羅だ。若洲鹿組の制圧、ご苦労であった。」


ス、と手を差し出してくる城土には答えず、自分の手でパーンッと弾き返した。


途端に城土の表情が厳しくなる。


「…貴様…!」


「よっ 学園の最高機関 生徒会執行部サマ。城土星羅…ってブフッ!変な名前ー!」


「…お前…私の名をバカにするのか…!?」


城土がギリ、と歯軋りをする。
しかし志暢はそんな彼女を無視して続けた。



「城土星羅…城土星…土星!?…ブッフー!だから“サターン“なのか!納得ー!」


「まだ言うのかお前…!」


「いやーさっきからお前のことみんなサターンサターンって呼んでて何でかなー?って思ってた訳さ。そしたら…プッそういうことか。…よろしくなサターン!」


ニタァ、と棗にも負けない凶悪な笑顔で志暢は手を差し出した。



サターンはその手を躊躇無く、反対側に思いっきり折り曲げた。



「いってぇぇぇぇ!!?」


「フンッ!何度も何度も私の名をバカにしやがって!しかも私の握手も拒否されたし。」


サターンはギロリ、と志暢を睨んだ。



「…高蔵。私はお前なんか認めないからな!お前ら改生会とやらは我が紫ノ宮学園には相応しくない!学園の秩序と和を乱す者は排除するまでだ!」


サターンはくるりと踵を返した。


「…また会おう高蔵。次に会うときを楽しみにしている。」


そう言って、サターンは去っていった。
それに黙って神無月もついていった。




「待ってよサターンちゃん!…ごめんね愛梨ちゃん私もう行かなきゃ。またね!」


あぁちゃんは愛梨、そして志暢に手を振り、サターンたちを追いかけていった。




「…お前は行かないのか西谷。」


残された西谷はニコニコと笑っていた。




「んんーっんいやいやちょっとご挨拶をね。どーもどーも初めまして改生会の皆さん!生徒会執行部庶務の西谷湊未(にしたに みなみ)です!以後お見知り置きを!」


西谷は志暢たちに明るく笑いかける。
しかし、目だけは全く笑っていなかった。


志暢はこの女が、どことなく棗に似ていると思った。
胡散臭い雰囲気がそっくりだ。



「やーやーやー先輩方も大活躍でしたねぇ!特に奥口さん!かっこ良かったですよー!?」


里美が無言でジロリと睨む。


「あははは!やだなー怒んないで下さいよ。…あぁ、そうだそうだ。改生会の皆さん、今回の騒動の御礼といっちゃなんですが、ちょっとしたものをご用意しているんです!」


「御礼?」


「えぇ!超絶レアのプレミアものですよ?後日部室にお届けしますね!」


「それじゃ、私はこれで!」と西谷は陽気に帰っていった。



西谷が去った後、辺りはシン、と静かになった。



「…えーと、なんつーか場が締まらないけど…帰って祝勝会でもするか!ティーパーティーの続きしようぜ!みんなで!」


「…そうですね!うん!そうしよう!うん!」


「もちろん抹茶も用意してあるんでしょうね?」

「御崎、あたしはコーヒーが飲みたい。」



みんなが御崎の提案に乗り、ワイワイと騒ぎ始めるも、志暢はひとり他のことを考えていた。


サターン。生徒会執行部。西谷。
噂は聞いていた。そして今までの出会った人の話の中にも彼女らのことは入っていた。

これは一筋縄ではいきそうにもない。
退屈だった日々が、少しずつ変わっていくことに喜び、そして名残惜しささえも感じる志暢であった。




みんなで学校に帰るため、歩き出す。
そんな中、里美は振り返った。


遠い向こうに、菅谷の墓が見えた。
明日、また墓参りに来よう。そう里美は思った。



菅谷さん。あなたの罪は許されたのでしょうか?

ねぇ、あなたは今、空の向こうで笑って、元気に過ごしていますか?


菅谷さん、自分で自分の命を絶ったあなたは今、幸せですか?





里美は目を閉じる。
きっと、菅谷さんの答えを聞ける日は、一生無い。


それでもいい。
それがあなたの答えなら。



「里美ー!なにしてんだよ置いてくぞ。」


御崎が遠くの方で呼び掛けているのが聞こえる。


「…あぁ、今行く!」



里美はみんなが待つ場所へと走り出した。