Seventh Heaven

「では、付いて来い。移動するぞ」

わたしは、世界の裏側というその場所を彼女とともに出る。

「名前。わたし、なゆたっていうんだ。これからは、なゆたって呼んでよ」

「わ、我に命令するな、貴様、弟子のくせに!」

「弟子でもないし、貴様じゃなくて、なゆただってば!」

「な、な、な、な、な、な、なゆた」

「う、うん。って、なにそんなに緊張してんの」

「は、初めてだから。他者の名を呼ぶなど、はじめてなのだっ!しかし、我には名乗る名前がない」

彼女は寂しそうにうつむいた。

「もう決めてあるよ」

「え」

彼女の顔がほころんだ。

「真白。ましろ。あなたの名前は、今日から、真白。あなたもわたしの友達だよ」

「な、な、な、な、な、あ、あ、ありがとう、な、な、なゆた」

「そんなに照れないでよ、こっちまで恥ずかしくなっちゃうじゃん」

「照れてなどいない!しかし、友達、悪くない響きだな。これが、貴様、いや、なゆたが言う情なのだな」

「…捨てられるわけないよ」

「そうだな…先程は悪かったな。真紅達を救えるよう、我も協力しよう」

そして、真白につれられてやってきたのは、武道会場のような広い部屋だった。

「さあ、道着に着替えよ」

「って、なにこれ」

「道着だ」

彼女から、手渡されたのはセーラー服、そして、ルーズソックスだった。

「こんなのが道着なわけあるか!」

「はやく着替えよ、ハァハァ」

「どこのエロオヤジだ、おまえは!このままでいいし!」

「そうか、残念だな。ならば、まずは、心技体のうち、心から鍛えてやろう」

「それ、あんたから教わらなきゃならないわけ?」

「なんだその言い方は。さあ、修行を始めるぞ」

そう言って、真白が準備を始めたのは、将棋だった。

「なにこれ」

「将棋だ。知らぬのか?」

「それくらいわかるわ!」

「先の先、そして、相手の心理を読むには、将棋を指すことは、非常に有意義な修行なのだ」

「そうだったんだ。でも、わたし、ルールわかんないけど」

わたしは、真白の盤上と同じように見様見真似で、駒を並べてゆく。

「ルールなど、指している内に覚える。くくく、対局相手がいなくて、いつもひとり詰将棋を指す日々から、ようやく解放されるのだな」

「ちょっとちょっと!動機が不純でしょ、それ!」

「なゆた!角行と飛車の駒の位置が逆だ!罰として、腹筋100回!今から、我に勝てるまで、将棋を指してもらうぞ!負けるたびに、罰を与えるから、覚悟するのだぞ、くくく」

そして、将棋を指すという、本当に意味があるのかどうか疑わしい修行が始まってから、どれだけ時間が経過しただろう。

食わず眠らずで、対局は何千回と続いた。
彼女は、わたしの心を読めるのだ。
わたしが、真白に勝てる要素はあまりに少ない。

負けるたびに与えられる罰は、腹筋、腕立て、スクワットなどの他に、くすぐり刑など、真白の趣味でしかなさそうなものまで、わたしは全てをこなした。

「王手!」

そして、1500回目の対局でついにわたしは真白を破ったのである。

わたしの心を読める彼女に対して、長考は無用と気付いたわたし。
真白が、わたしの心を読む前に指すという戦法により、見事勝利したのである。

「さて、次の修行に移る前に、一息つこうか」

「そうだね、さすがに疲れたよ」

「な、ならば、ならばっ!風呂にでも入るか?背を洗ってやってもよいのだぞ?」

「あ、ひとりで入るから。ひとりで!」

「友達だろう!?」

「友達だからって、お風呂に一緒に入ったりはしないから」

そして、束の間の休息の後、技を会得する為の修行は始まった。

「なゆたよ、次はこれだ!」

「は?げ、ゲーム!?」

真白が持ってきたのは、テレビゲームだった。

「今度は、ゲームで対戦するわけ?」

「いや、対戦だけではなく、協力プレイも行う。これは、ゲームの中のキャラクターの技を、なゆたが身につける修行だ!」

「え」

ようするに、見て学べ、と。
しかも、ゲームの世界の事を。

しかし、よく考えてみると、それはある意味、理にかなっている。
わたしは、この世界において、限界を超える事ができる存在。
それは、自分の中にある常識をくつがえす事ができるという事。
ゲームから、それを学ぶのは、常識の範囲にとどまらない技を身につける事になるのだ。

そして、わたし達は、ひたすら、ありとあらゆるゲームをやりこんだ。
食わず眠らず、で。

「さて、早速やってみよ」

「え、やるって何を」

「両手から出してみろ。あれだ、かわいいは正義波だ」

真白は、有名なあの構えを真似て見せる。

「はあ?それは、むりでしょ!」

「今のなゆたならば、できるはずだ。とにかくやってみろ」

「あ、ああ、わかったよ。じゃあ。」

わたしは、少し呆れながらも、言われた通りに膝を落とし、合わせた両手を腰の横に構えた。

「かぁーっ!わぁーっ!いぃーっ!はぁーっ!」

え!?
手のひらにエネルギーが集まってくる。

「これは!」

「さあ、ぶっ放せ!」

「…正義ぃぃぃーっ!!!」

わたしは掛け声とともに、両手を前方に突き出し、エネルギー波を放出したのである。
そして、放出したエネルギー波は、真っ黒なこの暗黒空間に消えていった。

「んなあほな」

「修行は終わりだ」

真白は、満足げに言う。
将棋やらゲームを堪能したのだから、そりゃ真白は満足に違いないが。

「え、でも、心技体の体は?」

「それは、罰として与えた数々の訓練により、しっかり鍛えられているはずだ。それは、なゆたもわかっているだろう?」

たしかに、ちから、体力は以前と比べ物にならない程ついている気がする。

「さあ、試してみようか」

「…ああ」

再び、世界の裏側へとやってきたわたし達。

世界の裏側から、この世界を斬り、消滅させるという試み。

わたしは刀を抜いた。
そして、刀に全意識を集中させる。

わたしは、真紅、緑夢、金華、そして、七咲さんを助けるんだ。

「でやあああーっ!」

強い覚悟を示すように、わたしは刀を振り下ろした。

しかし、何も変わった様子はない。

「やったな」

「え」

ガラスが割れたかのような音が鳴り響く。
真っ黒な世界に、大きなひびが入ったかとおもうと、まるで、ガラスが砕け散るように世界は崩れ始めたのである。

「やった!これで、もう無益な争いをせずにすむんだ!」

わたしは、この世界を斬る事に成功したのだ。

「よくやった。ただし、この方法にはひとつ大きな問題がある」

問題?
そう言えば、それについてまだ聞かされてはいなかったっけ。

「この技は、一見全てを凌駕するように見えるが、この世界の裏側からでしか斬ることはできないのだ。よって、紫の世界の裏側がどこにあるかわからなければ、意味がない」

「えーっ!?じゃあ、いったいなんのために修行したのー!」

「前向きに考えろ。我との楽しいひとときを過ごせたではないか!」

「ば、ばかじゃないの!」

「冗談はさておき、最悪の場合には、我があやつを討つ。それでよいな?」

「…ああ」

わたしは、了承するしかなかった。

「さて、頃合いだ。紫の世界にて、待っておるぞ」

そう言い残し、真白は姿を消すのだった。

そして、わたしは、いつもの頭痛により、意識を失うのだった。