「そ、そうだね、行こうか」

「うん、かなもいくっ!」

かなは、わたしの腕にからみついてくる。
まったくもって、暑苦しい。
しかし、嫌な気はしない。
同性とはいえ、こんなかわいい女の子から好かれるのは、悪い気がしない。
ただし、真紅の冷たい視線が気になるが。

「なゆたさん、キモすぎ」

「う、うるさいわ!緑夢のバカ!」

そうこうしていると、わたし達は、一件のおしゃれなカフェへとたどり着いた。
例にもらさず、紫一色の外観。

「歩き疲れたね、パスタとサンドイッチ食べたいなー」

「緑夢、あんた、ずっとお菓子食べてたじゃない」

「お菓子は主食!パスタはおやつ!」

「は、はぁ、さようでございますか」

「気をつけなさいよ」

真紅が言う。

「まったく、緑夢は食べる事しか頭にないんだからー」

「いーじゃーん」

わたしは、一歩後ろを歩く緑夢と話しながら、おもむろにカフェのドアを開けた。
そして、かなと共に店内へと足を踏み入れた、その時である。

「えっ」

それは、頭上で何か光ったのと同時だった。

「危ないっ、なゆたん!」

わたしは、かなに店内奥へと突き飛ばされる。

「な、なに!?」

ドアの方を見ると、天井から吊るされた斧が垂れ下がっている。

「あたしは、大丈夫だから」

かなは、無事のようだ。
それにしても、あの斧はいったい。
かなが助けてくれなかったら、わたしの頭は真っ二つになっていたに違いない。

「だから、気をつけなさいと…言ったんですよ!」

真紅は、手にしたレイピアで突きを繰り出すと、斧を粉々に破壊した。

「こんなふざけた真似をするのは、誰ですか」

真紅の瞳は、怒りに満ちている。

「大事な人を危険な目に合わされたんだから、当然だよね」

「緑夢!あなた、死にたいんですか」

「じょ、冗談だって!」

真紅に睨まれた緑夢は、たじろぐ。

「いらっしゃいませ、ようこそ。ボクの世界へ」

奥から現れたのは、薄い紫色の髪、ショートヘアの美少女だった。

この顔、どこかで?

「ごめんね。この世界には、ボクひとりだから、突然の来訪者に備えて、ね」

「死ぬとこだった!」

わたしは、大きな声で言った。
そう、もう少しで、わたしは死ぬところだったのだ。

「だから、ごめんねって。あ、そうだ。マカロン作ったんだ。食べる?紅茶もいれるよ」

「ボク?男?」

緑夢が首をかしげる。

いや、あきらかに、女だ。きっと、一人称が「ボク」という、今巷で流行りのボクっ娘というやつだろう。

「はーい、いただきまーす」

緑夢がテーブルに着くと、紫色の髪をした少女は、店の奥から、色とりどりのマカロンを運んできた。

「お金はいらないから、ゆっくりしていってよ」

彼女は5つのティーカップをテーブルに並べると、紅茶を丁寧にいれていく。

「みなさん、どうぞ。あ、もしかして、怪しんでるのかな?」

当然である。
先程、わたしは、殺されかけたばかりなのだ。
彼女がいれた紅茶など、飲めるはずがない。
みんなも同じだ。

「それじゃ、ボクが飲めば、疑いは晴れるかな?」

少女は、紅茶にくちをつけて見せる。
たしかに、紅茶に毒などは入れられていないようだ。

「あ、大丈夫じゃん!んじゃ、早速いただきまーす!」

「待ちなさい!」

「やだよー、毒なんて入ってないじゃん!そんなに、人を疑ったら、だめだよ。もう、食べちゃうもんねー」

真紅の制止を無視して、マカロンをくちに運ぶ緑夢。

「うわ、これめちゃうまい!」

ものすごい勢いで、マカロンをくちに運ぶ緑夢。
ひとりで全部食べてしまうかのような勢いである。

しかし、次の瞬間。

「うっ!うぐ!」

椅子から転がり落ちた緑夢は、おなかを抑え苦しんでいる。

「どうしたの!」

わたし達は、緑夢にかけよる。
紅茶ではなく、マカロンに毒が入れられていた?

「あはは、苦しそうだね。苦しい?苦しいよね?あはは!」

のたうちまわる緑夢を前にして、少女は笑っている。

「ううっ!苦しい!助けて!」

「あーっはっはっはっ!」

しばらくすると、緑夢の全身が煙に包まれる。

「緑夢!」

わたし達が見守る中、煙に包まれた緑夢はなんと指輪へと姿を変えてしまったのである。
それは、エメラルドの宝石が付いた指輪だった。

「あははははは!」

それを指にはめて、笑う少女。

「おまえ!どういうつもりだ!」

わたしは、少女につかみかかる。

「な、なに?」

「おまえ!緑夢をもとに戻せ!」