阿漕荘の2人

練無side


紫子が脱兎のごとく公園から走り去った



「えっ?なに?しこさんどうしたの?」


練無は森川に聞いた



「何が?」

森川は真っ直ぐ練無を見て
澄ました表情で答える

「なんで、僕………初デートで彼女に
逃げられるの……」




「君の日頃の行いが悪いんだよ」



森川の一言に頭に来た練無は
彼をにらみつける

しかし、身長差20㎝ほどある森川には
練無のにらみなど可愛いものだ



「だいたいね、なんで、デートの待ち合わせに
他の男を連れてくるわけ?」


「それは、香具山さんが悪いね」



「お前が言うな!おしるこ、ぶっかけるぞ!」



「それ、空でしょ?」



「……なんか僕に言うこと
あるんじゃないのかな?
ねえ、森川くん?」



「ああ、僕は幸せだ」

森川はわざとらしく
天空を見上げて小声で囁いた



「神様、感謝します。誠実に生きてきた甲斐がありました。アーメン」


「…………」



練無は黙って森川の脇を通り抜けて
歩道側に歩く


「おい!小鳥遊!何処に行くんだ!」



「しこさんのところ」



「こら!馬鹿、ここにいろ!」

森川は物凄い勢いで
練無が巻いていたマフラーを引っ張った