オカンはホステスをしながら、俺ら兄弟

を女手一つで育ててくれた。華奢な見た

目とは正反対の、肝の座った女だ。手を

抜こうもんなら、飯を食わせてもらえね

えし、恐ろしい制裁が待ってる。


けどアイツのおかげで、今の俺がある。


酒が残ってキツイ日も、アフターで寝て

ない日も、とにかく毎日かかさずジムに

運んでくれた。すげえ根性だ。


進路を決める頃になって、俺は悩んだ。

俺の志願する、陸上の名門校は、学費が

バカ高い。大会や遠征に行く度に金もか

かるし、経済的に完全にアウトだ。


悔しかった…クッソ悔しかった。


けど、どうにもならなかった。


そんな時、オカンがアホなことを言い出

した。


「ねえ、堕威!ママ結婚する!」


コイツはいきなり、何を言ってるんだ?

今でも毎日、親父の話をするほど愛して

止まないのに、何の冗談だ?


「ママも、幸せになるから、堕威も高校

で陸上続けてよ」


俺を、陸上の名門校に入れるためだとす

ぐに分かった。オカンに惚れ込んで、店

を開くための資金援助まで考えてる野郎

がいることを、俺は知っていた。社長の

息子らしいけど、まだ23、4のガキで

そんな野郎にアイツを任せられるわけが

ねえ。


「高校で陸上するつもりねえし」

「へっ?!堕威、冗談でしょ?」