はああ、それにしてもいい匂い。


怖い体験をしたことなんて、スッカリ忘

れて、香水の移り香の方が気になってる

私は、琉聖くんより、単純なんじゃない

かな?


何ていう香水なんだろ?制服の胸元を持

ち上げて匂いを嗅いでみるけど、分かる

わけもなくて。だって、香水とはまった

く無縁の、私。


琉聖くんは、何気にオシャレだもんね。

髪型もいつもキマッてるし。私ときたら

ショートの髪が伸びちゃっただけの髪型

で、いつも毛先がピンピンはねてる。女

子力なさ過ぎだよ。やっぱり、イモなの

かな?


一華って名前も、名前負けしちゃってる

気がするし。私の華は、どこに飛んでっ

ちゃったんだろ?


明日は少し早く起きて、ガンバってみよ

うかな。


「一華、大きな独り言?」

『え、えっ?!聞こえてた?』


「イモ?」

『そこかい!!ぷうっ!』


「ねえ、香り付きリップ欲しくない?」

『欲しい!!』


「ねっ!行こっ ?」

『うん!!』


私達は、近くのドラッグストアでリップ

を買うことにした。


コスメコーナーで、お試し用のリップを

手の甲に塗って、色を見たり、匂いを嗅

いだり、次々と試している紗夜。薬用リ

ップしか知らない私は、見よう見まねで

イチゴの香り付きのスイートストロベリ

ーを選んだ。紗夜は随分迷ったすえに、

桃の香り付きのベビーピーチを選んだ。