「やだやだっ、点滴はやぁ!!」

『……うっ…』

騒がしいその声に目が覚めた。
目を開けると点滴は終わっていて綿とテープで固定されていた。
身体が凄く軽く感じる。
発作の息苦しさもない。
多分、点滴のお陰だと思う。

「我が儘言ってないでさっさとやる!点滴なんてあっという間だろ?」

「翔真(しょうま)先生には分かんないよっ!!私の気持ちなんてっ!」

「つか、静かにしろよ。ここ相部屋なんだぞ?隣の子しんどくて眠ってるんだから」

「うるさいっ、ハゲー!!」

「は、ハゲ!?ハゲってなんだよ!!別にハゲてねぇし!つか、俺まだ26だぞ!?」

「オッサンにはかわりないじゃん。てか、そろそろハゲてくんじゃね?プププッ」

「お、お前なぁ」

『……?』

そういえば悠兄が相部屋になって一個上の女の子が入院してくるって言ってたっけ。

『っ!!』

とりあえず起き上がろうと思い、起き上がった瞬間、目眩に襲われて倒れそうになった。
なんとか倒れずにすんだ。
目眩もすぐに治まり、私はベッドの右端に座るとゆっくりとカーテンを開けた。

「あっ!莉乃ちゃん、ごめんな?起こしちゃったか」

私に気付いた翔真先生こと、琴浦 翔真(ことうら しょうま)先生は悠兄と同じ呼吸器内科の先生で悠兄が居ない時や忙しい時によく悠兄の代わりに診てもらっている。

『ううん、大丈夫……?』

ふと視線を感じてそっちに顔を向けると隣のベッドに座っている女の子と目が合った。

「ああ、莉乃ちゃん紹介するね?この子は相良 実侑(さがら みゆ)。莉乃ちゃんと同じ高校の三年生で今日から喘息で入院する事になったから仲良くね?」

『う、うん……』

「へぇー、君も鷹宮(たかみや)高校なんだ。私もなんだ!改めて、私は相良実侑。よろしくね?」

鷹宮高校って言うのは私の通っている県立高校の事で、相良さんも同じ高校だという事にちょっとビックリした。

『えと、はいっ……私は月見里莉乃って言います。よろしく、です……相良さん』

「もう、敬語なんてかたいよ!タメでいいって。あと相良じゃなくて実侑でいいし。私も莉乃ちゃんって呼ぶし」

『えっ?あっ、はい……じゃなくて、うんっ』

私達が挨拶を交わし、笑い合っていると翔真先生が実侑ちゃんの肩に手をポンッと置いた。

「実侑、そろそろ点滴をしようか」

翔真先生は満面の笑顔でそう言った。



ダッ


ガシッ



「逃がすと思ってんのか?」

いきなり走り出した実侑ちゃんを翔真先生はすぐに捕まえた。

「いやぁぁ!!鬼っ、悪魔っ、ハゲ!!」


ブチッ


『あっ……(ヤバイ、翔真先生キレちゃう)』

「ハゲハゲうっせぇ!大人しくしやがれっ、クソガキ」

実侑ちゃんをベッドに押し倒すと身体を押さえ付け、翔真先生はナースコールを押した。

「実侑ちゃん、どうした?」

聞こえてきたのは悠兄の声だった。

「あ、悠。わりぃんだけどちょっと来てくんねぇ? 点滴してぇのに暴れて出来ねぇんだよ」

「了解」

その後すぐ悠兄は来た。

「おっ、莉乃起きてたんだな。悪いけどちょっと待ってて。すぐ済ませるから」

『う、うん』

悠兄はそう言うと暴れている実侑ちゃんに近付いて行き、実侑ちゃんの身体を押さえ付けた。

「いやあぁ!!悠斗先生までなんなのっ!」

それでもなお実侑ちゃんは暴れている。

「そんな興奮するなって。また発作出るぞ?」

「いやあぁぁ!!」

「今だっ、翔!」

「ああっ!」

翔真先生は素早くアルコール綿で消毒をし、点滴の針を刺した。