僕は持ってきたボールをつきながら、コートに移動する。相手もコートに入り、僕らは対峙した。

「俺は女に負けるほど柔くねえ。」
「ほー……は?」

思わずボールをついていた手を止めてしまった。こいつ今なんて…

「あいつ何言ってんだ?」
「あの人って男じゃ…」

他の時雨坂の人たちがどよめく。見ればいつの間にか2、3年の人たちも僕たちのやり取りを見ていたようだ。

「…お前には僕が女の子に見えるわけ?」
「あ?違うの?」

いや違うわけじゃないけど。今まで初対面で、しかも制服以外の格好で女の子だと判断されたことがなかった僕は、喜ぶよりも先に戸惑うしかなかった。

「確かに最初は男かと思ったけど、それにしちゃ小柄だし、ちっこいし、女だって言われても違和感はねーかなって」

そういうもんなのか。そんな単純な理由なのか。僕は何故か拍子抜けしてしまった。いや別に相手の心読めるやらなんやらを期待したわけではないけれども。

「まあどうでもいい。早くやろーぜ。」

正直どうでもよくないけどこんなので時間を潰すのもよくない気がしたので、僕は頷き転がっていたボールを拾う。

「あんたがオフェンスでいいよ。」

うわあ完全になめられてる。女子には負けっこないってか。あとさっきからタメ口なあたり、たぶん僕のことを1年と思っているのもあるかもしれない。

「負けても文句なしだかんね。」