考えもしなかったヨウの言葉に、

雅也も私も思考が上手く回らない。

なんでいきなり“ありがとう”なんだろう。

雅也が私を家まで送ってくれたから?

夏休みにたくさん遊んでもらったから?

……きっと、そういう意味の“ありがとう”なんだ。

「そうだよね、ヨウ。

 ヨウの言うとおり、雅也、本当ありがと……」

頭の中で整理して出した言葉を、ヨウの大きな声が遮る。

「お姉ちゃんのこと、好きになってくれて。」

無邪気に言うヨウに、私の心が焦り始める。

「ヨウ、違うってば! 雅也は私を好きだなんて……」

「ううん。雅也お兄ちゃんはお姉ちゃんのことが好きだよ。

 だってほら。

 お兄ちゃんの顔が“好き”って言ってるもん。」

ヨウの言葉に雅也の顔が一気に赤く染まる。

私もヨウの自信に満ちた言葉を

どう対処したらいいのか分からない。

一瞬の間の後、隣からすっと足音が聞こえたかと同時に、

「じゃ、俺帰るわ。またな。」

そう言い残して雅也は走って去っていった。

「ヨウ、なんでそんなこと言ったの?」

興奮のあまり少し乱暴にヨウへ問いかける。

するとヨウはふんわりとした表情を浮かべて、

「僕、分かるんだ。

 雅也お兄ちゃんがお姉ちゃんのこと好きだって。

 お姉ちゃんも、お兄ちゃんのこと好きなんだもんね。」

とさらりと言うと家の中へと入っていった。