羽ばたけなくて

「あの雲、掴めるわけないじゃん。」

「そ、そんな事してないもん。」

そう言いながらも私は内心冷や汗をかいていた。

だって、雅也の言うとおり、

私は、綿菓子みたいなふわふわな雲を取ろうと

手を伸ばしていたのだから。

雅也はこれ以上何も言わず、

ただ私に向かってもう一度イタズラな笑顔をした。

そんな私と雅也のやり取りを訊いていた美園が

キャッキャと笑い始める。

「羽衣ってば、たまに普通と変わったことするよね。

 それも急に。」

普通と変わったこと―――

美園のこの何気ない一言。

きっと普通だったらさらりと聞き流してしまうだろう。

でも、私にとってこの言葉は、

程度はどうであれ心の奥底に深く突き刺さってしまう。

普通。

普通じゃない。

ただ、私がその言葉に

過敏になり過ぎているだけなのかもしれないけれど。