羽ばたけなくて

私はちらりと雅也の方を見てから、

「ありがとう。」

と聞こえるか聞こえないかの小さな声で言い、

すぐに視線を海へと戻した。

こんなに近くで雅也を見つめることなんてとても出来ない。

体の片側だけが火照って熱い。

しばらくの間の後、

「無理すんなよ。」

と雅也がぽつりと呟いた。

私の声がちゃんと聞こえてたんだ。

「う、うん。ごめんね。」

海を見つめたまま私はこたえる。

そしてまたしばらくの間、沈黙が流れた。

でも、それは決して重苦しいものではなく

むしろ心地いいものだった。

波の音が素敵なBGMになり、

オレンジ色の夕日が輝くスポットライトのようだ。

まさかこんな時間が過ごせるなんて。

あまりに幸せ過ぎて私は天にも昇る気持ちになっていた。