「……あぁ。君は確か――」



私を一瞥したあと、額に掛かる前髪を掻き上げ深い溜息を吐く。

疲れているだけなんだろうか。それにしても、色気が半端ないな。



「平野です。具合でも悪いんですか?」

「いや……さっき、以前僕がオペをした患者が亡くなったんだ。どんなに手を尽くしても、命の期限には逆らえないのは分かっているんだが……どうにも、やるせなくてね」



自嘲めいた笑みを浮かべて、切なく溜息をまた一つ。

そんな彼の姿に目を見張った。

だって、そんな事を考える人だとは思わなかったから。


確か、今日亡くなった患者は68歳の女性。病名は肺がん。

オペをしたものの、予想以上にいろいろな臓器に転移が見られ全摘出は出来ず

術後も抗がん剤で治療を続けていた。

しかし今朝急変し、そのまま亡くなってしまったのだ。



「意外ですね。人の生き死になんて、気にしない人かと思ってました」