あの人――福山裕貴と出会ったのは、八年前。

当時私は、櫻井総合病院の外科の看護婦として毎日忙しく働いていた。

そこへ新しく配属されてきたのが彼だった。


二つ年上の彼は、二十四歳と言う若さとは裏腹に確かな技術と知識で

大勢の患者さんを助け、その実績から他の病院から引き抜きされて来たらしい。

そんな彼はスラリと背は高く、面長の顔に一重の目。清潔感漂う短髪。

必要以上は喋らず、無愛想で常に上から目線。

私からすれば冷たく俺様な印象しかないけれど、周りの看護師たちはクールでカッコいいと眼の形がハート。

あまり好印象ではない裕貴と話を交わすようになったのは、ある夜勤の日からだ。

暗がりの中、医務室でひとり項垂れている人影を見た私は、具合が悪くなったのかと声を掛けた。



「大丈夫ですか?」



私の声に反応し、形の良い頭がゆっくりと持ち上げられる。

そこにはいつもの自信満々で俺様な雰囲気はなく、肩を落とし大切なものを無くした子供のようにさえ見えた。