「“幸せ”か……」
徐に立ち上がった護くんは、十字架を見上げる。
そして振り返り、私を見詰めた。
「俺は、今凄く幸せだよ。幼い時は寂しさもあったけど、でもはるさんに出会えた。あの人が産んでくれなければ、俺は今ここに居なかったろうし、それだけは感謝してる」
「護くん……」
私はそれ以上、何も言えなかった。
“お母さん”ではなく“あの人”
もしかしたら、恨んだこともあるのかもしれない。
それでも“感謝してる”と言える護くんは、強いのだと思う。
彼の心には、まだきっと埋められない溝がある。
私に、その溝を埋めることが出来るかな?
お母さんの変わりは出来ないけれど、“家族”という新しい形で――。
「はるさん。いや、平野陽香さん。こんな俺だけど、結婚してくれますか?」
「え……」
突然の申し出に、驚いて言葉が出ない。
「歳を取って、お婆ちゃんやお爺ちゃんになっても、お互い愛し、2人で分かちあい、家族となることを誓ってくれますか?」

