またしても言い終えない内に、私の声はかき消された。
それは彼の声ではなく、彼の温かな胸板に押し付けられることによって――。
「俺、もの凄く嬉しいです。ここで叫びたいくらいに」
強く抱きしめる腕から、彼の嬉しさが感じ取れる。
周りの人が見ているかもしれないから、本当は恥ずかしいけれど
もう少しこのまま、彼の匂いと温かさに包まれて居たいと思ってしまうのは
恋の病にかかってしまった所為?
「ふふっ、それは注目の的になるから止めて欲しいかな」
耳に当てた胸から、早鐘のように打ち付ける彼の心臓の音が聞こえる。
私には、この音と腕の強さだけで十分。
「じゃ、キスは?」
「それもダメ。もうすぐ、悠が帰ってくるから」
嘘。本当は私だってしたい。
でも、悠にはまだ刺激が強すぎる。
だから、もうすぐ帰ってくるであろう彼には見せたくない。

