「相変わらず、お前ん家は綺麗だな」
「親父も滅多に帰ってこないし、俺も自分の部屋しか使ってないからな」
あれ?なんか、今の言葉に違和感が……。
まるでこの家には、二人しか住んでいないような言い方じゃない?
でも何も知らない他人の私が「お母さんは、いないの」なんて
簡単に聞いていいことじゃないよね。
人には、それぞれ深い事情があるんだから。
「さ、こちらです」と通された場所は20畳はありそうな広いリビング。
中央にある茶色の革張りのソファには、男性が一人新聞を広げて座っていた。
「お邪魔します」
「あぁ、いらっしゃい。平野陽香さん、ですね。神谷 紘(ひろし)です。よろしくお願いします」
彼は直ぐに私たちに気が付いて、ソファから立ち上がると
私に近づいて、手を差し伸べて微笑む。
身長は護くんたちよりは低いけれど、シルバーの眼鏡の奥に光る眼光は鋭く
様々なものが見透かされてしまいそうだ。
「今日は大切なお時間を頂き、ありがとうございます。私の息子の、悠です。よろしくお願いします」
彼と握手を交わし、頭を下げた。

