クローバー♧ハート - 愛する者のために -


「相変わらず、お前ん家は綺麗だな」

「親父も滅多に帰ってこないし、俺も自分の部屋しか使ってないからな」



あれ?なんか、今の言葉に違和感が……。

まるでこの家には、二人しか住んでいないような言い方じゃない?

でも何も知らない他人の私が「お母さんは、いないの」なんて

簡単に聞いていいことじゃないよね。

人には、それぞれ深い事情があるんだから。


「さ、こちらです」と通された場所は20畳はありそうな広いリビング。

中央にある茶色の革張りのソファには、男性が一人新聞を広げて座っていた。



「お邪魔します」

「あぁ、いらっしゃい。平野陽香さん、ですね。神谷 紘(ひろし)です。よろしくお願いします」



彼は直ぐに私たちに気が付いて、ソファから立ち上がると

私に近づいて、手を差し伸べて微笑む。

身長は護くんたちよりは低いけれど、シルバーの眼鏡の奥に光る眼光は鋭く

様々なものが見透かされてしまいそうだ。



「今日は大切なお時間を頂き、ありがとうございます。私の息子の、悠です。よろしくお願いします」



彼と握手を交わし、頭を下げた。