本当は言うつもりは無かったけれど、言わなければ何も始まらない。
この人は知るべきなんだ。自分の父親が何を言ったのか。
私が何故、あの病院を逃げるように退職したのかを。
「裕貴。なんで私があの病院を辞めたと思ってるの」
「え……それは、俺が由依と婚約したから。ショックで、じゃないの?」
ふっ……全然、知らないんだ。
あの当時確かに、事実を他人から教えられたショックはあった。
愛じゃなく、地位と権力をとったあなたに――。
だけど、あの病院を去ろうと決意したのは、誰でもないあなたの父親の言葉が原因だ。
「違うわ。あなたのお父様が、悠を堕ろせって言ったからよ」
何処の馬の骨とも分からない奴が、福山家の血を継ぐ子を産むのは許さない。
あの人の顔は覚えていなくても、その言葉だけは今でもハッキリと覚えている。
「そんな……父さんが、そんなことを」
少なからずショックを受けたのか、驚きのあまり椅子の背凭れに体を預けた。

