「葉月ー飯ー」
部屋の向こうから泉の声が聞こえた。
「はーい」
あたしはジャージのまま胸のあたりまである髪をポニーテールにして、部屋を出た。
リビングにいくと、泉と…
え?
「え?」
「おー、来たか。飯食うぞ。」
いや、ちょっと待てよ。
「泉」
「ん?」
「だれ?泉の後ろにいんの」
うん。確かに見える。見えるぞあたしには。
泉がご飯をキッチンから運んでるときにテーブルのイスに座って、眠そうにテレビを見る高校の制服を着た坊主の男の子。
横顔しか見えないけど、泉に似てる。
「あ?ああ、康介のことか。康介、挨拶しろ」
泉に言われると、ゆっくり目をこすりながらこちらに顔を向けた。
この時に康介くんに初めて会ったんだ。
康介くんの第一印象は、
泉よりも整った顔をして、あどけなくて、笑うとえくぼが出て可愛いなあと思った。
「兄貴の彼女?」
康介くんは落ち着いた声であたしに言う。
「あ、ううん。友だち。あたし、泉には迷惑かけっぱなしで。昨日も失恋したのを慰めてもらってて親友みたいな感じかな」
「お前、迷惑かけてるとか思ってねーだろ(笑)」
「うるっさい!(笑)」
「こいつは、葉月。見た目は大人っぽいけど中身くそガキだからお前も仲良くしろよ(笑)」
なんだ、その紹介の仕方は。
「よろしくね」
とりあえず笑おう。
「うん、よろしくね、葉月さん」
そう言うと彼は、あたしの頭を撫でた。
あーーっ。
若い。若いよ。眩しいよ。うん。
それから、ご飯をいただいて康介くんはすぐ学校に向かって出て行った。
「ごめん、今日午後から練習なんだよ」
「ううん、逆にごめんね居座って」
「いーんだよお前は。特別だろ?」
「んまあー、泉のこと1番理解してるかも」
「だろ?ならいつでも電話しろよ?失恋でも新しい恋でも応援するからよ」
「ありがと」
それから、着替えて支度して泉と家を出て、駅で別れた。
あたしはまだぜんぜん気づかなかったんだ。
この暑い夏に起きる人生1番の恋愛になることを。

