「えー。それで終わりなの?!」
「そうよ。」
お母さんは優しく微笑んで答えていた。
「その男の人…A君とはどうなったの?」
「結局、高校卒業するまではそれまでの仲だったよ?」
キョトンとして言うお母さんを、はぁ?と思ったが口を閉じた。
「それで、高校でその人と別れて、お父さんと出逢って恋に落ちて結婚したの?もったいない。その人にすれば良かったのに。」
私が言い終わるのと同時に、つけていた鍋が沸騰しているのに気付く。
「お母さん!火!」
「あ!忘れてた。」
お母さんは慌てて鍋を消しにいく。
「まったく…。」
でもまぁ、お父さんと結婚しなければ私はいない訳だし。
私はちゃんと自分の気持ちは伝えられる人間になろう!
明日から高校生だし!
enjoyするぞ!!
「なんだ輝。ガッツポーズなんかして。どうした?」
後ろからお父さんの声がして振り返る。
「あはは…。なんでもないです…。」
「ふーん。」
と言って首を傾げている。
「あ!お父さん。」
ちょっと小声になり、私はお父さんに近付く。
「お母さんをどうやって落としたの?」
お父さんは少し顔を赤くしながら、さぁ?と答えた。
「えー。」
「俺も分かんないし…。」
「えーっと…じゃあ、プロポーズは?」
「ああ。えーっとね…」
「せっかくだから再現してよ!」
「はぁ?!」
お父さんの間抜けな声と同時にお母さんが来る。
私はニコニコして、今後の参考に、と言うと、
「輝はされる側だろ」
と言って、お父さんは立ち始めた。
「真白指輪貸して?」
「え?うん。」
お母さんから指輪を受け取ると、お父さんはかけていた眼鏡をきちんとかけ直し、一度咳払いをしてお母さんと向き合う。
「…あの…」
顔を赤くしているお父さんを、お母さんはなに?と言って愛しそうに見つめていた。
「月が綺麗ですね。」
え?
「やだ…。…死んでもいいわ…。」
え?
そうやりとりして、お母さんは指輪を受け取ると、はめてと言って手を出した。
「なに?プロポーズの再現?照れるじゃん…。」
「だって輝が…」
そんなやりとりをしている2人を遠目で見て、
もしかして…
と思ったけどあえて口を噤んだ。
「私はちゃんと自分の想いは口にするからね、お母さん。」
「ちょ、どうゆう意味よ!」
怒っているお母さんを無視して、私は愛しそうにお母さんを見ているお父さんを見つめて、
お父さんは何年も苦労したんだなと悟った。
ーENDー

