「君かな?美しい声で私を呼んだのは」
その日1番波が高く上がった瞬間その人は僕の目の前に現れた。いつ現れたのかはわからない。気がついたらそこにいたのだ。
「私かい?私は神様だよ。君があまりにも悲しく美しい声で私を呼ぶから君の願いを叶えたくなってしまった。だからこうして、君に会いにきたんだよ。」
神様は本当にいたんだ…。そうして僕は神様にお願いごとをした。

あの子の悲しみを、涙を拭い取ってあげたい。
あの子を抱きしめてあげたい。
あの子を、あの女の子を守りたい。

すると神様は優しい笑顔で僕は見つめた
「君は心優しい子だね、いいだろう。君のお願いごとを聞いてあげよう。ただし、一つ条件がある。」
神様は人差し指を立てて僕に言った。
「君を人間にしてあげよう、その代わり君のその美しい声を私に預けてくれないかい?」
神様は言葉を紡ぎ続ける。
「もし君がその声を私に預けてしまえば人間になった時君は言葉を、声を出せなくなってしまう。人間になってしまった時の代価はとても大きいんだ。コミュニケーションを取るときにもっとも必要なものは声だ。声は、言葉は魂だ。魂が魂に呼びかけるための大切な力だ。あの子の歌声が君に響いたように、君の言葉があの子に響いたように…。その魂を、君は失ってしまう。それでも君は、人間になりたいかい?」
神様の声や表情はとても優しいものそのものだったけど、言葉ひとつひとつがとても残酷なものに聞こえた。僕は歌うことが好きだ。その歌をなくしてしまうのはとてもつらい。でも、それでも、

僕はあの子のそばにいたい。

「いいだろう、君の意思はとても強いね。人間にしてあげよう。君の望む通りに動き、あの子の幸せを願い続けるといい。」

そう言って神様は濡れた僕の頭を撫でた。その瞬間僕は酷く激しい睡魔に襲われて意識を失った。