「毎日、あの猫に餌をあげているのか?」

猫と別れたあと、おれは先を歩く安子に話しかけた。

「うん。」

「なんで、そこまでするんだ? あの猫、捨て猫だろ?お前が捨てたわけでもないのに… なんで毎日世話をしてんだ?」

安子は突然関をきったように質問する、おれを驚いたように見つめた。そしてため息をついて答えた。

「わたしに、似てるんだ… わたしね、中学にはいって両親が離婚したんだ。おかあさんは女手ひとつでわたしのことをそだててくれてる。おかあさん、家に帰ってくるのおそいし家事は私一人でやってるんだ。」

おれは初めて知る安子の家庭事情に息を飲んだ。そうか、だからこいつは友達も作らず、放課後遊ばず、家に帰るのか… 友達を作れば放課後の時間がとれない…そしたら母親に迷惑がかかる…だからこいつは…

「おかあさんかえってくるのおそいし、わたしひとりぼっちで寝るんだ。そしてベッドで考えるんだ。わたし、あの猫とおんなじでひとりぼっちなんだって。だからね、少しでもあの猫と一緒にいたいの。そしたらお互いひとりぼっちじゃなくなるじゃない?」

安子は寂しげな目でそういった。

「んじゃわたしのいえ、こっちだから」
そう言うと安子はおれの家とは反対の方向へ足早に歩いていった。

「あのさ、あしたも一緒にかえっていいか?」

おれが去っていく安子をよびとめると、彼女はうれしそうにうなずいた。

そうか…安子にとってあの猫はいまの心の支えなんだ…おれは心のなかにもやもやしたものを抱えながら帰宅した。