「父の表情がさえない。何か私に隠している。母はだませても
私はだませない。父は何かを知っている」

「今までの発作が薄められて、その分毎日起きるようになったみたい。
今日も若林さんの夢を見た」

「痛い痛いとても背骨が痛い。助けて若林さん!何も悪いことして
いないのに。何も悪いことしていないのに。ほんとに痛い」

このころからモルヒネの回数が増え杏子の思考は正常でなくなってきた。
文字も殴り書き。痛さをこらえて書き続けたのだ。

「私は絶対若林さんのことが好き。退院したら結婚してほしい。早く
帰ってきて、プロポーズしてあげるから」

「痛い痛い体中が痛い。神様なんているのかしら、神様?だけど私には
若林さんがいる。花嫁衣装はウエディング、高島田どちらも似合うわよ
美人だし。絶対いい奥さんになるから早く帰ってきて!痛い痛いとても
痛い。若林さん、助けて!」

「今朝は夢の中で若林先生に起こされたわ。とても楽。痛みが少ないの。注射
のせいかな。いやいや若林先生のせいだわ。毎日夢に出てきてくださいね」

「今日は家族でピクニックに行ってる夢を見ました。小学生の子供が二人で
4人家族ですよ。もちろん二人は幟町小学校の5年生。昔の儘の二人なんですよ」

「痛い痛い、夜中も眠れません。体中が痛くてどうしようもありません。今若林
さんはどのあたりを旅しているんですか?まさか地雷を踏んだりしていないで
しょうね。お便りください、手紙で必ずと約束されました、もうすぐ12月です」

「痛い痛いほんとに痛い。体中の骨が酸に侵されているみたいです。何とかして
若林先生!もうとても苦しい。手を動かすのも痛いのです。お薬もあまり効かなく
なりました。気が狂いそうです」

「父も母も目にいっぱい涙をためて見守ってくれています。私はいつも必死で
笑顔を作っています。もうこの痛みには耐えられません。父母が帰ると私は
思いっきり叫びます。若林さん、たすけてーっ!」

「とげの毒が体中をまわっています。生きる命がもう負けそうです。若林さん
の力を信じています。時々ふと我に返って痛みが全く無い時があります。必死で
手紙を書きましょう。私が愛した人は若林治君!大好き。私の専属医師なんですよ。

ベッドにひざまずき両手で私の手をしっかり握ってこう言ってくださるの。
『頑張れ杏子!お前は私の妻だ、一生離さない!』かっこいい若林君!
賛成の方手を挙げてください!学級委員の若林君大好きです!わたしを
お嫁さんにしてください。おねがいします」