「斎は生きてる。ただ意識を失っているようだ。聖は?」

 明美のとなりに並ぶようにしてしゃがみ込む。

「よくわからない。なにかを飲まされみたいなんだ。それから苦しみだしたみたいだけど……」

 明美の話を聞きながら和己は落ち着いた様子で、変わり果ててしまった仲間を見た。
 苦しげに咳き込み、喉をかきむしる聖が苦痛に歪んだ顔で和己を見る。

「アイツ……アイツは、ひとみじゃねぇーよ……」

「うふふ」

 後ろから笑い声が聞こえてくる。

「聖くんがこれからどうなるのか、教えてあげましょうか?」

 ひとみはさも楽しげな様子で、組んでいた足を解くと優雅ともいえるような仕草で立ち上がった。ゆっくりと近づいてくるひとみを前に、聖を守るようにして二人は立ちはだかる。

「ひとみは聖のこと『聖くん』なんていわない。あんた誰っ!?」

「あら、そうだったかしら?」

 明美たちからニメートルほど手前の、離れたところで足を止めると、口元に人指し指を持っていって首を傾げる。一見ひとみらしい無邪気な様子ではあるが、そこにある冷たい笑みは全然彼女らしくない。

「呼び方なんて、どうでもいいじゃない。それよりも、いま目の前で苦しむ彼のことを考えたらどう?」

「どういうこと……?」

「ファーストキスを捧げたの」

 勝ち誇ったような不敵な笑みを浮かべ、

「深い口付けと共に、私のしもべになれる魔法の薬を与えてやったんだよ」

 反らした胸の前で腕を組む。もはや口調さえもすっかりかわってしまったひとみの言葉に唖然とする。

「じきに死が訪れ、血は滞り、肉は腐敗し、崩れ、やがて完全なる我の下僕、ゾンビとなる。愉快だと思わないか? 己が好きだった男を意のままに操れるのだ。そして気に入らなければ、簡単にこの世から葬り去ることもできるのだぞ? うふふ、ふふ、あーっはっは!」

「‼」

 背中をのけ反らせ、狂ったように笑うその姿に、背筋が寒くなる。後ろの聖を振り向くと相変わらず青白い顔をして床の上に横たわり、震えの止まらない体を抱きしめていた。