冷たい体を震わせ、虚ろな目をした聖の瞳にはなにも映っていないようだった。そこに見えるのは怯えのみ。
 今まで聖のこんな姿を見たことのなかった明美は、どうしていいか分からず動揺を隠せなかった。

「聖……!」

 聖の襟元を掴み、激しく揺さ振る。己を取り戻してくれることを願って。
 やがて、力無い人形のように首をガクガクさせた聖の瞳が色を映し、明美をとらえた。

「うっ……あ、けみ……?」

「なにがあったのよ!?」

「俺、は……」

 明美の肩越しにひとみの姿を見つけると、驚いたように目を見開く。明美が聖の視線をたどる。ひとみは変わらず、組んだ足をブラブラさせながら不気味な笑みをたたえ、楽しげにこちらを見ていた。

「ひとみがどうしたの?」

「ひとみが……俺にキスを」

 その時の思い出したのか、震える両手で口元を押さえる。

「無理やり口の中に、何かを飲まされた……!」

 口の中に?

「何かってなに!?」

 この状況を見て、ただのディープキスだとは考えにくい。じゃあいったいなに!?

「うっ……! ああっ」

 手を払いのけ、再び苦しみ出す聖を前に、明美は成す術もなかった。
 なにがどうなっているのか状況も掴めず、自分も混乱の真っ只中に置かれている。聖を助けてあげたくてもどうにもできない自分にもどかしさを感じていると、肩に手を置かれた。

「大丈夫か」

 振り仰ぐと、斎神父を見ていた和己が側に来ていた。