「少し、外に出てくる」

 男達に声をかけて校舎から出た。冷たい空気が肌に凍みる。空から降る雪も、気持ちを軽くしてくれない。

「……?」

 校舎の周りを一周した所で、見知らぬ人影を見かけた。
 この時間、しかもいつゾンビが現れるかもわからないのに一人でいるなんて、気でも触れたのか。

「何してるの?」

 鋭く声をかける明美に振り向いたのは、

「おはよう。お姉ちゃん」

 無邪気な笑みが浮かぶ、まだ小学校ぐらいのあどけなさの残る少年。明るい茶色い髪はくりくりの天然パーマで、キラキラの大きな瞳は好奇心に輝いている。
 か、可愛い……‼
 絶対に将来、カッコいい男のコになるに違いない。
 気の緩んだ明美が側に近づいていく。

「おはよ。一人で歩くのは危険だよ?」

「危険?」

 小首を傾げて問い返す姿は至って純粋無垢。明美は笑いながら少年に目線を合わせるように、かがみこんだ。

「そう。いつゾンビが現れるかわからないんだから。襲われたら大変なんだよ? 危険が迫らない内に早く――」

 あどけない笑みを浮かべたまま、両手を差し出してくる少年に言葉を止める。

「危険なのは……」

 伸ばされた小さな両手が、明美の首に絡み付く。

「お前のほうだ!」

「‼」

 一瞬、なにが起きたのかわからなかった。
 自分好みの小さな男のコが、あどけない顔をしながら襲い掛かってきたのだ。
 首にめり込む指。今や鬼のような恐ろしい笑みを浮かべ、苦しげに顔を歪ませる明美を見て、楽しんでいるようだ。

 な、なんて力……‼

 首に掛かる指を解こうとその手を掴むが、一向に離れない。離れないどころか、逆に強まっていくように感じる。

「かはっ……!」

 思うように息が出来ない。息苦しい。
 そもそもなんで子供にこんな力が!?
 霞む目で睨みつけた。

「まだそれほどの余裕があるのか」

 少年は楽しげに笑うと、明美の首を絞めたまま腕を持ち上げた。

「死ねっ!」

「ううっ……!」

 明美の足が地面から離れる。