指を解いてもう一度、手の中の聖水を見つめる。
 今まで聖水の存在さえ私に明かさなかったのに、今になってどうして聖水を譲り渡したりなんかしたんだろう。

 体が自由に動かせなくなったから?
 それとも……私の知らないところで何かが起こってて、ひとみがそれに対応しきれないと感じたから?

 そもそもそんな考えに思い当たったのも、最近のひとみの行動からだった。
 ひとみは私に、絶対うそをつかない。今までだって一度もうそはつかれたことがないから、これだけは自信を持って言える。
 でも。
 うそはつかなくても、隠すことはできる。
 ひとみは私になにか、隠しているような気がしてならない。
 日中、私を避けるように遠ざけているし、斎神父とこそこそしている。聖が好きだとあらためて聞いたときは、心変わりしてなかったことに、なぜか私がほっとした。それならなんで斎神父とばかり一緒にいるのかと聞いたら、「側にいてほしいの」っていっていた。
 好きでもない人に側にいて欲しいって、どういうこと?

 なにかが心にひっかかる。
 答はすぐそこにありそうなのに、それに指先が掠めるだけで届かないように、もどかしい。

「いや~今日は冷えますね。雪も降ってきましたよ」

 向こうの部屋から聞こえる斎神父の声で、はっと現実に戻される。どうやら朝の散歩から帰ってきたようだ。
 窓に目をやると、白い雪がふわりふわりと降っているのが見える。気分転換に外の空気を吸ってこよう。
 ひとみが眠っているのを確認すると、聖水をポケットにしまった明美は席を立った。