なんだろう。
 胸騒ぎが止まらない。

 両手に包んだ小さな瓶を握りしめながら、まだ眠っているひとみを見た。顔色は青白く、一見しただけではまるで息をしていないようにも見える。小さく上下する胸だけが、生きていることを伝えていた。

 昨日のひとみは……
 いつもと様子が違っていた。
 楽しそうに聖の話しをし終わったあとで、この小さな瓶は貰ったものだ。

 手のひらに握りしめたそれに視線を移す。この中には透明な液体が入っている。ひとみはこれを奇跡を起こす『聖水』だといって私に渡した。
 どうしていま渡すのか、今まで自分が持っていたのに、今になって私に寄越すのか。不思議に思った私は聞いた。

「マリアさまの儀式を受けた時にもらったの。あの学校に代々伝わるもので、マリアさまの資格を得た人に少量だけ分けているって聞いたわ。この聖水を生かすも殺すも、私たち次第なの」

 深夜。布団の上に座り込んだひとみは、手の中に握る聖水を愛しげに見たあと、真っすぐな瞳で明美を見た。

「大きな奇跡が起きるように……今まで肌身離さず身につけて、毎日祈りを込めたわ。寝ているばかりの私には、いざというとき使えないと思うから……明美ちゃんに持っていてほしいの」

 そんな大事なもの、私には持てない。
 断る明美に、切実な顔をしながら弱々しい細い手が、聖水を握らせたのだった。