聖は鈍感だから、ひとみに想われていることにちっとも気がつかない。
 ひとみが好きなのはあんたなんだよ? そういいたい気持ちをぐっと堪えた。それを伝えるのは私じゃない。
 ひとみが斎を好きになるなんて考えられないことだ。聖への気持ちを大切に思ってるんだから、いきなり現われたあんな得体の知れない神父を好きになるはずないんだ。
 ただ、斎は大人だから、一番頼りになるから。
 ひとみには、私なんかじゃなくて、斎が必要なんだ。

「さっさと帰るよ」

 聖を置いて歩き出すと、その背中に声がかかった。

「そんなにしょげるなよ」

「え?」

 心の中を見透かされたように、ドキリとして振り返る。満面の笑顔で聖がこちらを見ていた。

「俺がいるじゃん!」

「……聖」

 数歩先を行った明美に歩み寄り、表情をひきしめた。

「俺は何よりもお前のことが最優先だし、一日中考えてんのはお前のことだけだ」

「………」

「お前が寂しいって感じてんなら、その寂しさ俺が取っ払ってやる。寂しいなんて感じないぐらい、賑やかに騒いでやるよ」

「な、なにいってんの」

 聞いてるこっちが恥ずかしくなる。顔がほてって聖の顔が正視できなかった。

「でも、ちょっと嬉しい。ありがと」

 お礼をいうなんて照れ臭いけど、確かに聖の気持ちに救われているところもある。

「うお? 明美ちゃんが素直だぁ♪ かわいいなぁもう。キスしたいぐらいだ!」

「ば、ばっかじゃない!? ぶっとばすよ?」

 結局最後はいつもの調子で、聖は明美に追い掛け回されながら学校へ戻って行った。

 今はまだ、本当の悪魔が明美たちを侵食しつつあるのを知らずに……。