聖が仕度をする合間、忘れないうちに斎に声をかけた。

「ひとみが呼んでる」

「私を、ですか?」

 自分を指差して首を傾げる。

「そう」

 頷くと、

「わかりました」

 嬉しそうな笑顔を浮かべ、布団を片付けた斎はひとみの元へ向かった。
 その背中をじっと見る。
 ひとみが起きている時間、私といるより斎といるほうが長いように感じていた。
 少し、寂しいかな。
 明美ちゃん! って抱き付いてくるひとみを懐かしく感じる日が来るなんて、思いもよらなかった。

「……むかつく」

「はい?」

 和己の一言で現実に戻された。

「むかつくって、どしたのさ?」

 いまだ寝ボケまなこで、目の座っている和己を覗き込む。
 和己の視線がゆっくり動いて目が合う。

「和己ってさ」

 そこまでいってつい吹き出してしまった。
 だって寝起きの和己は、低血圧のせいなのかムチャクチ目付き悪い。
 顔がいいぶん凄みも増すんだけど、よく見るとまぶたが二重になっててミスマッチでかわいいというか。

「あはは」

「………」

 腹を抱えて笑う明美を、和己は迷惑そうにじっと見ていた。

「おまっとさん! 和己観察はもういいだろ? 早く行こうぜ!」

 半ば強引に腕を引っ張られるようにして、家庭科室を後にした。