次の日、同じ様な時間に3人は準備を整え待ち構えていたのに、ゾンビたちは現われなかった。
 気を張っていた分、肩透かしをくらったようで納得がいかない。
 ひとみもあれから失われた体力、精神力を回復するように寝込んだまま一度も目を覚ますことなく、微熱も未だにあるようなので、明美が看病についていた。
 そして、急に現われなくなったゾンビたちに、ほっとしていた2日後とうとう再びゾンビたちの襲撃を受けた。
 今日はいつもとゾンビたちの動きが違った。なだれ込むように押し寄せてくる。休む暇も与えられず、すぐに体力が奪われていった。
 ひとみも起き上がれない状態。

 絶望――。

 そんな言葉が脳裏の浮かんだとき、済んだ低い声が響き渡った。

『闇に操られし道にさ迷いし死人たちよ、己の帰るべき場所に帰りなさい――!』

 ゾンビたちの後方から、まばゆいばかりの光。

「な、なに!?」

 明美たちも目を開けていられず、その光を遮るように手をかざす。
 光に押し通されるようにして、声も上げずに消えていくゾンビたち。
 明美たちには目の前でなにが起こったのか、分からなかった。ただ、眩しい光が納まるのを待った。
 いつもの色が目に戻ってきて、目の前を見る。

「あれ、ゾンビたちは?」

 明美が慌てるのも無理はない。今まで目の前にいた溢れんばかりのゾンビたちが、きれいさっぱり消えていたのだ。
 その代わり、少し離れた廊下の向こう、胸に十字架を下げ黒い服を着た若い男が立っている。

「あんた誰?」

 警戒心むき出しのとがった声で明美が聞く。聖も和己も手に持った武器は下げない。

「いや~ゾンビに立ち向かっている学生たちがいると聞きましてね、私も微力ながら協力したいと思いまして」

 目じりを下げ、人のよさそうな笑顔を浮かべながら近づいてくる。ヘラヘラ笑うその姿は気が弱そうだ。

「ここにいたゾンビ、皆あんたがやったのか?」

「あ、はい、そう……うわぁ!」

「あ」

 返事をしたその時、前に進もうと上げた足が、自分の穿いている長めのズボンの裾を踏んづけて、目の前で思い切りこけた。  
 黒い塊がつぶれたような光景に、その場を奇妙な沈黙が包む。

「アタタ……」

 その人が苦笑いを浮かべながら、両手を突いて起き上がる。

「どうも、私 斎要(いつきよう)といいます。あの、これでも神父なんです」

 そういって顔を上げた斎は、再び気弱そうな笑顔を浮かべた。