後方を振り返ると、2階で寝ていたはずのひとみがいた。床に両膝を付き、組んだ手に唇を付けるようにして、そっと瞳を閉じて祈る姿があった。
 体は大丈夫なのだろうか?
 祈るその姿は神々しいまでの輝きを放っているが、その顔色が優れないのは一目瞭然だった。
 しかし、今はひとみに与えられた力を無駄にするわけにはいかない。ひとみに駆け寄りたい気持ちもあったが、気持ちは目の前の敵、ゾンビに集中した。
 見ると聖や和己の力も復活したらしく、いつものような機敏な動きが戻ってきている。明美も遅れを取らないように、敵に立ち向かっていった。
 
 戦いは続き、やがてひとみの援護が途絶える。
 すると、今まで盛んに攻撃をしてきたゾンビたちが、うそのように姿を消していく。
 体力はすでに限界を超え、体は鉛のように重かった。
 攻撃の姿勢を見せなくなったゾンビたちに、明美たちも肩の荷が下りたようにほっと胸を撫で下ろした。

「ひとみ!」

 ひとみを振り返ると青白い顔をしたまま、倒れこんでおり、意識がない。
 昨日と同じ様に、2階へ運び、取り合えず落ち着いた。

「休憩しよ……」

 電気ポットでインスタントのコーヒーを入れると、聖と和己に配る。

「サンキュ」

「悪い」

 窓際にそれぞれ寄りかかりながら、コーヒーを口に運びほっとため息をつく。
 昨日も今日も、同じ様な時間に襲ってきていた。

「また明日も同じような時間に襲ってくるのかな」

 ポツリと、独り言のように明美がいう。
 ひとみをしばらく休ませないと、限界なのは目に見えている。そのひとみがいなければ、自分たちもそう長くは戦えない。
 ゾンビたちはなにが目的なのか。

「俺たちを潰しにかかっているのかもしれない」

 そういいながら和己は、明美の頬に手を伸ばす。

「大丈夫か?」

 和己の指先がそっと、明美の頬に触れる。

「え?」

 急に頬を触られ、なにが? と聞き返しそうになり、先ほどの戦いで怪我をしたことを思い出した。

「ああ……大丈夫。たいしたことないし」

 今は痛くない。しばらくは引っかき傷のような跡が残るかもしれないけど。

「女の子なのにな」

「こ、こんなのたいしたことないってば!」

 大事に扱われるのに慣れていない明美が、顔を赤くして和己の手を振り払う。
 その時、強い視線を感じて、聖を見ると物いいたげな顔でこちらを見ていた。その視線のせいで、昨日の真面目な聖を思い出してしまった。
 今まで居心地がよかった場所なのに、なぜか居心地が悪く感じた。