夜。
 再び、大量のゾンビたちが攻めてきた。
 ひとみが寝込んでいるため、3人のみの力で立ち向かうしかない。
 2階にはひとみがいる。どうしても1階に踏み止まらせなければならない。
 2階へ上がる階段を前に、3人がそれぞれ武器を持ち、道を遮るように立つ。

「へっ毎日お勤めご苦労さん!」

 力をみなぎらせ剣先をゾンビたちに向けながら、聖が不適に笑う。聖と反対側の和己が大きく息を吐いた。真ん中の明美が左右の二人を見て、頷き合う。
 迫りくるゾンビたち、それぞれ手に持つ柄の部分に力がこめられた。

 そして、衝突――。

 手馴れた様子でそれぞれの武器を操る明美たち。はじめは元気に動き回っていたものの、やはり体力には限界があるというもの。ゾンビたちは一人一人が捨て駒のように、倒しても次から次へと現われる。
 ゾンビの攻撃を避けきれず、明美の右の頬をナイフのように研ぎ澄まされたゾンビの骨の見える指先が掠めた。
 
「くっ……!」

「明美!」

 聖と和己が同時に振り返る。

「大丈夫! ふたりは自分たちの敵に集中して!」

 いつもならばたいしたことのない攻撃。だからこそ避けきれない自分に腹が立った。二人に心配させてしまったことに、情けなさがこみ上げてくる。
 熱さを感じる右の頬を素早く拭う。手の甲が赤く染まった。

「少し休め」

 いつものようにポーカーフェイスの和己がそういうと、聖と二人で1歩踏み出し、明美を守るようにして戦い始めた。
 守ってもらう必要なんかない……そういいたかったけれど、言葉は出なかった。
 なにより二人の背中が大きく、頼もしく感じて、ガラにもなく見惚れてしまったものだから。

 ちょうどその時、体の中をさわやかな新緑の風が吹いた。
 それは体の隅々の疲れを浄化するように駆け巡り、重く感じていた体を軽くしていく。
 もしかして……!?