両手を広げて嬉しそうに待っている聖に、明美が冷たい視線を投げかけた。

「………」

「明美! 早く‼ 来いよー‼」

 顔を輝かせたまま、両手を広げて待っている。

「は? なんのつもり?」

「俺ともハグ! ハグー‼」

 抱きついてくる明美を待ちきれないのか、恍惚とした表情でもはや怪しい奴になっている。

「バカじゃないの? するわけないでしょ! 和己にハグしてもらえば?」

 聖、哀れ。いつものように冷たく突き放される。

「だ、ダメだよう! 聖ちゃんと和己くんが抱き合ったらボーイズラブになっちゃうよぅ!」

「はいはい、変な妄想はやめようね」 

 ひとみがまんざらでもない表情でいうのを、明美が子供をあやす親のような気分で制する。

「和己となんてやだい! 明美がいいやい!」

 両手を広げたまま、駄々っ子になる聖。

「いや、俺も……どうせ抱きしめるなら女のほうがいい」

 それまで黙って静観していた和己が、ポツリという。

「ボーイズラブは嫌いなのぉ? う~んでも、和己くんに抱きしめられたいって女の子なら、たくさんいるんじゃないかな~? だって、カッコいいもん!」

 口元に人差し指を添えたひとみが、うふふっと微笑む。

「だ、だからもう、抱きしめるっていうテーマから外れようよ、皆……」

 明美が疲れたように深い、深ーいため息をついた。
 それに、皆普通に話してるけど、盛り上がるところが違うよ。和己が携帯なしで話してることに驚こうよ、ひとみ。

「意外と、和己くんと明美ちゃん、二手に別れてるときに抱き合ってたんじゃないかな~? なんてっ」

「‼」

 ある意味、的を得たひとみの言葉に、危うく噴出しそうになる。
 そこへポーカーフェイスの和己が、口を開いた。

「よくわ…」

 平然と、本当のことを言い出しそうになる和己の口を、慌てて明美が手を伸ばして塞いだ。

「わ、わーわー!!」
(バカッ! 余計なことはいうなっ!!)

 和己の耳元に小声で注意して、その口を塞いでいた手を離す。

「明美ちゃんどうしたの~?」

「な、なんでもない、なんでもない。それより、和己が普通に話するようになってよかったよね!」

 話を切り替えるために、和己を餌にする。
 それまで普通に和己と話していたひとみが、はたと和己を見上げる。

「………あぁー‼」

 一瞬間を置いたひとみが、和己を指差して驚きの声を上げる。

「本当だー! 和己くん、しゃべってるぅ‼」

 気付くのが遅いよ、ひとみ。