晴れて視界も良好だったために、山道もすぐに見つかり、ゾンビの妨害を受けることもなく、後は順調に頂上までたどり着いた。

「なに、これ……!」

 頂上にたどり着いた明美は、目の前に広がる光景に声を無くす。
 教会の周りにきれいに並んでいるはずの墓。真っ直ぐに立てられていたはずの、数々の十字架の掲げられた墓石は、倒れていたり斜めになっている。棺桶にいたっては掘り返されたようにあちらこちらで見え隠れしていて、墓が全て掘り返されたようになっていた。
 例えるなら、まるで巨人の子供がおままごとで土いじりをした後のように、めちゃくちゃになっていた。
 唖然とする明美の横で、顎に手を添え、考え込むように突っ立っていた和己は、地上にすっかり全体を出したようになっている一つの棺桶に近づく。かがんで、ためらうことなく蓋を開けた。

「か、和己なにやってんだよ! バチが当たるよ!」

 明美の心配をよそに、蓋を開けた棺桶を覗き込む。

「………空だ」

「え?」

 慌てて駆け寄る明美も中を覗き込む。本来なら亡骸が眠っているはずの棺桶の中には、何も入っていなかった。
 そのすぐ近くの蓋が開きかけの棺桶も、蓋を外して覗き込むとやはり、中身は空っぽだった。
 皆、中身がない、空っぽだ。

 ここのお墓に眠っていた亡骸はいったいどこへ? 
 もしかして、皆ゾンビになった?

「とにかく、聖たちと合流しよう」

 和己の声に頷くと、円を描くように立てられたお墓の真ん中にある教会へ入っていった。
 ステンドグラスを通して入ってくる陽の光が、どこか神秘的な印象を与える教会の中。最奥には聖母、マリア像。その暖かな眼差しが向けられている足元には、両膝を立て両手を組みながら祈るひとみの姿。そして最前列の席に座る聖が振り向いた。