「うちら、仲間じゃん。どうして今更逃げるの?」

 和己がそらした視線の先に自分が映るように、わざと明美が動く。すると今後は視線を合わせるまでもなく、和己が顔をそらした。

「俺の前に来るな」

 まるで怒ったような口調。  

「は!? なにそれ。どういうことよ!?」

 和己のいいように、納得のいかない明美のほうがいきり立つ。

「見えてんだよ……」

 一瞬だけ明美を見た和己が、目のやり場に困ってボソッつぶやく。

「下着の線」

「……ん?」

 指摘された明美が自分を見ると、雨に濡れた白いシャツが体にペッタリへばりついて、ブラジャーの線がはっきりくっきり現われていた。

「ぎゃぁ!」

 さすがの明美も、これには慌てて胸を隠すようにして自分を抱きしめる。
 それでさっきから私を見ないようにしてたのか。

「ずっと一緒だと信じてた仲間を突然、裏切った……そんな奴と同じ声の俺と、口なんてききたいと思わないだろ?」

 和己は立ち上がって、腰にかけていた長袖の黒のシャツを解き、明美に差し出す。

「そりゃ、光成は私たちを裏切ったけど……それが和己とどう関係あるのさ? 私はあんたと話が出来て、嬉しいと思ってるよ」

 片手を伸ばし、それを受け取るとそれも濡れているために袖が通しにくかったが、胸を隠すためには文句なんていっていられない。苦戦しながらそれを着込む。

「光成と同じ声なのに、か?」

 渡したシャツを着た明美に、安心した和己が真っ直ぐにこちらを見てくる。

「同じ、かな。ううん、違う。似てるけど、ちょっと違う。同じなんかじゃないよ。それに、光成は光成。和己は和己だろ」

「聖と同じこと言うんだな」

「やっぱり聖とはもう話してたんだね」 

 植物のゾンビと戦う前、和己の話をしたとき少しぎこちなかった聖を思い出す。