まるで心臓のようにドクドクと脈打つ、小さなトゲで周りを覆った茶色のそれが、和己の手により現われる。
 こうなってしまえば後はもう簡単だった。片手で持ち上げたそれは、大きささえ違うものの野球ボールを扱うように、聖に投げつける。

「おわ!」

 投げて寄こされたそれに、慌てて聖は顔の前で剣を振り下ろした。抜群の切れ味でそれは一刀両断され、皆が見守るその前で、崩れるように土に返る。
 誰もが無傷ではなかった。
 立ち尽くす4人を包む静寂。
 初めて力を合わせ、倒したという達成感。それは一人一人の心に爽快感を生み、やがてそれぞれに笑顔がこぼれはじめる。

「くぉらー和己! あと少し切るのが遅かったらあのサボテンボール(?)が顔面にぶち当たるところだっただろうが! 投げて寄こす前になんか言えっつのよ!」

 わざと膨れながら文句をいう。

「少し当たったほうが良かったんじゃないか? いい男になれたかもしれないぞ」

 楽しそうに笑いながら明美が返す。

「でも、当たったらとっても痛かったんじゃないかなぁ?」

 いつものひとみに戻った彼女がくすっと笑う。

「………」

 その3人のやり取りを見守るようにしていた和己に、目をやった明美が驚いた顔で、

「か、和己、手‼」

 和己の手を指さす。両手をダラリと垂れるように、立ち尽くしていた和己の両手から、地面に滴り落ちるほどの赤い血が流れていた。

「うあっ大丈夫なのか!?」

「和己くん、大変~‼」

 確かに少し痛い気もしていた。それに妙に手が濡れたような感じがあるなと和己は思っていた。

「………?」

 皆にいわれて、両手を目の前に広げるように、じっと見る。

「………」

 土にまみれながら鮮血があちこちから流れていた。
 自分の手から流れる赤いものから目が離せない。
 血の気が引くように目の前が、暗くなっていく気がした。意識が遠のいていく。
 
 俺、血を見るの苦手だった……。

「和己ー!?」 

 痛そうな顔もせず、ただ無表情のままその場に崩れるように倒れる和己に、皆が慌てて駆け寄った。


 居心地がいいから。

 絆が深くなるほど、話をするべきではないと感じる。

 声を聞かせて、チームワークが崩れるのが怖かった。