その声に振り返ると、

「か、和己……?」

 槍を手にした和己が立っている。

「なにしてんだ。早く倒せ」

 あちこち擦り切れた長いスカートを引きずって近づいてくるゾンビに、慌てる様子もない。

「お前、普通にしゃべって……」

「今は俺のことより、目の前のその雑魚を倒せ」

「ざ、雑魚ったって、あれ女だぞ」

「女ったって、死んでんだぜ?」

 もっともだ。

「……わ、わかったよ!」   

 手に持った長剣を握り締めると、自分に活を入れるため一度大きくそれを振る。
 ブン! 剣が風を切る音が耳をかすめる。

「よし!」

 気合十分、両手で柄を握り締め、目の前のゾンビに向かって飛び掛る。 
 力任せに斜めに切り込んだ。
 鈍い感覚と共に、胴が二つに切り離される。さすが『マリアさま』の祝福を受けた武器。効果は抜群だった。ゴボゴボという苦しげな音を立てたかと思うと、見ている目の前で土のように崩れ、そして消えていった。
 あちこちに飛び散った肉片や、腐敗臭も消え、ゾンビがいたのがまるで嘘のようだった。

「和己……」

「女どもには俺が話したことをいうな」

「な、なんで?」

「………」

 戸惑う聖に、近づいてくる2つの足音を聞きつけた和己が口をつぐんだ。