時間をさかのぼること少し前。
 単独行動を取っていた聖は悠長に鼻歌を歌いながら、一つ一つの教室を覗いていた。
 視聴覚室に、家庭科室、後は普通の教室。
 それを順々に巡っていく。

「それにしても明美は気が強ぇよなぁ~」

 なにかっていうとすぐ手が飛んでくる。
 まぁそんなとこがまたかわいいと感じる俺も重症か~?
 にししと笑いながら余裕な表情で、特に変わりのない教室を後にする。

 がしゃん!

「―――!?」

 隣の教室から窓が割れるような音。
 聖は迷うことなく音のした隣の教室へ駆け込む。
 そこには―鼻を突く腐敗臭と共に割れた窓ガラスを這い上がるようにして、中へ入り込もうとする半裸のゾンビの姿。

「うおっ」

 目の前の光景に驚いて、勢いあまって奥まで滑り込みそうな自分の足を慌てて止める。
 
「きゃぁ~」

 思わず悲鳴をあげながら、携帯で仲間たちに素早くメールを送る。

『初ゾンビ出現! 聖ちゃん戦闘中♪』

 そうしている間に、割れたガラスにより体の所々をえぐられたゾンビが床の上へと降り立つ。
 今までと打って変わって真剣な表情の聖が、反射的に腰に下げている長剣へと手を伸ばす。
 長い髪の、豊かに膨らんだ胸を揺らしながら近づいてくる女ゾンビの片方の胸はガラスにえぐられたのか、骨が見えている。心臓があるはずの部分は穴が開いたように空洞だった。

「せめて服を着ててくれよ……」

 呟きながらゾンビといえど目のやり場に困った聖が、一定の距離を保ちながら後ろへ下がる。 

「聖!」

 低い、静かな声。