「バカ! 側にいて幸せを感じてたのはあたしのほうだ! 一人で、勝手になんでも決めるなっあんたは、頼りなくなんかなかったっ立派なマリアさまだったよ……!」

 涙が滲む。これ以上なにもいえなかった。誰もが言葉を無くし、ひとみの死を悲しんでいた。
 その時、ひとみの体から黒い影が飛び出してきた。

 うそだ……!
 ひとみが勝ったんじゃなかったのか!?
 ひとみがしたことは無駄だったのか!?
 闇のように黒いそれはユラユラと揺れながら人の形を作っていく。

「うう……危ないところであった。だが、残念だったな。我は生きている」

 人の形をとったそれは、揺らめく影でありながら顔の部分に笑みを浮かべた。

「犬死するとは愚かな」

 その言葉に血が上り、カッとなった。

「ふざけんなっ……!」

 奴を見据えたまま、腰にさげた細剣を素早く抜き放ち、向かっていく。

「我に剣を向けるか」

 さも楽しげに、唇を三日月型に歪める。

「やってやる!」

「明美っ」

「無理だ!」

 背後で同じように武器を手に取る二人が、暴走した明美を止めようと叫んだ。
 体中が警報を鳴らしているみたいに、ざわざわと私をせきたてる。頭が、目の前の悪魔を倒せと、指令を出していた。
 やってやる。これで全てを終わらすんだ!
 剣を振りかざし、悪魔に向かって振り下ろした。

「!」

 手応えもなく相手は一瞬にして消え去った。

 消えた? どこに!?

 回りを見渡す明美には、ひとみから引き抜かれた短剣が宙に浮かび、刃を向けて自分に襲い掛かろうとしていることに気付かない。

「明美! 危ないっ」

 和己が動くのを制した聖が、明美の背中に手をのばす。

 頼む、間に合ってくれ!

「あっ……!」

 もの凄い力で後ろから伸びてきた腕に抱きふせられた。背中を打ち、呼吸をするのが辛くなり、目の前が暗くなる。