「私……皆を傷つけてしまう。そんなのイヤ」

 そっと立ち上がるひとみに、その場全員の視線が注がれる。

「このまま、奴の思い通りになんて、絶対させない」

 皆を安心させるように笑みを浮かべながら、数歩後ずさる。

「聖ちゃん、和己くん、明美ちゃん、それに斎さん。今までありがとう。そして、ごめんね……頼りないマリアだったよね」

 皆から離れた所に立つと、護身用に持っていた短剣を取り出す。

「ひょっとしたらこれで奴を倒せるかもしれない」

 鞘を捨て、大事なものを扱うように短剣を両手に握り締めた。冷たい銀色の輝きを放つ短剣を持つひとみはまるで、これから聖なる儀式を行う聖者に見える。
 恐れず、刃の部分をゆっくりと自分に向けるひとみ。

「ひとみ? あんたなに考えてるんだ!」

 止めなくちゃ! そう思うのに足がすくんで動けない。一定の距離を保つひとみ。止めに入ったところで短剣を奪う前に、ひとみが行動してしまう可能性が大きい。彼女を刺激してしまうわけにもいかず、皆、見守るしか成す術がなかった。

「もう、これ以上の方法は見つからないの」

「だめだ……」

 声が震える。懸命にその場で首を振りながら、考え直してほしいと懸命にをうったえる。

「皆のこと、好き。明美ちゃんは誰よりもだ~いすき! あのね、私ね、小さい頃からずっと明美ちゃんの側にいれたことがと~っても幸せだったんだ~」

 いつもの間延びした口調。そこにはキラキラと輝くような、天使の笑顔があった。
 短剣を掲げ、胸をひと突き。

「ぎゃああああっ」

 ひとみの声ではない者の苦しげな叫び声。
 そして静寂。

「ひとみーーー!」

 こんなのって、こんなのってない!
 膝からガクリと倒れ込むひとみに皆が駆け寄る。
 床に倒れふす前に斎が抱き取った。

「ひとみ!」

 声をかけ、揺さ振るもそのまぶたが開くことはない。その声を聞くことはない。