「明美!」

 間もなく現れた和己と聖が、目の前の異様な光景に息を飲む。
 涙を流しながらもひとみの手は、明美の首を締めていた。
 和己たちは二人のそばに近づくも、相手がひとみなだけに手を出せない。

「ひとみ! 頼む。手を離してくれ」

 一歩前に進みでてうったえかける聖の声に、ひとみの動きが止まる。聖に移した視線が揺れた。

「……ぐっ……ああっ」

 涙に濡れた瞳が苦しげに歪み、明美の首を絞めていた手が離れる。

「ごほっ」

 痛む首に両手を当てながらふらつくと、素早く動いた和己が背後を支えた。
 苦しげに肩で息をするひとみは、明美を気遣うようにその足元に膝まずく。

「だ、い……じょうぶ?」

 苦しげに唇を震わせ、浅い呼吸を繰り返している。

「ごめん、ね……」

 哀しみの色に染まる瞳は、止まらない涙に頬を濡らしていた。明美の顔に触れるつもりで伸ばした手を、まるで自分が触ってしまったら汚れてしまうと感じたように、躊躇してそのまま引っ込める。その手が完全に戻らぬうちに明美はしっかり握って笑った。

「こんなの、平気だよ」

「勝ったのか!?」

 聖が駆け寄る。目の前にいるのは、さっきまでの邪悪な雰囲気をまとった者ではなく、いつものひとみそのものだ。
 ひとみは聖に視線を移す。

「聖ちゃん、ありがとう」

 そこに浮かぶのは、はかなげな笑顔。

「あなたの声が、明美ちゃんを殺そうとした私を、止めてくれた」

「お前がやったわけじゃない」

 怒りを含んだ鋭い声がかかる。自分の意思じゃないだろ? 和己が怒ったように訂正した。

「ありがとう、和己くん」

 和己に微笑んでみせ、その視線を明美に戻す。感情を隠すようにまつげを伏せて、親友の手をそっと離した。

「ひとみ?」

 不安になって明美が声をかける。