遠退く意識の中で、首を締めるひとみの手が僅かに緩んだ気がした。

「っ……!」

 気のせいじゃない。
 強く押さえられていた気道が、新鮮な空気を運んできた。送られてくる空気に肺が驚き、咳が込み上げる。と共に意識も戻ってきた。

「ひ……と……み……」

 霞む目で、不気味なほどの微笑みを浮かべる彼女に、必死にうったえる。どこか遠くで斎が何か叫んでいる。冷たいその手に触れ、出しにくい声を無理矢理絞り出し、名を呼んだ。

「ひと、み……」

 緩んだとはいえ、かわらず首に巻きついたひとみの手は解放してくれる気配がない。それでも、僅かな期待を込めてうったえる。

「お願い、離して……」

 明美の懇願に口元を歪める。残忍さを帯び、釣り上がった目は真っ直ぐに明美を捉らえていた。

「ひとみ……!」

 正気に戻って!
 強い願いをそのままぶつけるように名を呼んだ。その時、びくっと一瞬躊躇したのが、首に絡み付いた手から伝わった。

 まだだ。
 ひとみはまだ、悪魔に負けたわけではない。

 震えるまぶたをしっかり見開き、真っ直ぐひとみを見返した。

「!」

 残忍な笑みを浮かべるその目が、濡れたようにキラキラと輝いていた。やがて、その瞳から雫がこぼれ落ちる。

 ――泣いてる。
 体は支配されながらも、未だひとみは体内で悪魔と戦っているのだ!
 こうしているいまも、懸命に戦っている。