「痛い。何のつもり? 離せ」

「死ぬかもしれないんだぜ?」

 明美の非難の声も無視し、掴んだ手を離さない様子だ。

「そんなの分かりきったことじゃないか」

「俺はイヤなんだよ……!」

「は? いまさら? 光成みたいに臆病風に吹かれたの!?」

 嘲るように笑う明美は次の瞬間、掴まれている腕を引かれて勢いよく聖の腕の中へ。

「こ、こら、離せ……!」

「お前が傷つくのがイヤなんだ……‼」

 首元にうずめられた聖の顔。搾り出すような声。
 な……なんなんだこの展開は…!? これではまるで告白されてるみたいじゃないか!

「好きなんだ。お前が!」

 ほ、ほらやっぱりビンゴだよ!
 どうする!? この展開はまずいでしょ。
 私は聖にそんな感情を持ったこともないし、これから先、こんなことで気まずくなるのもイヤだ。

「好いてくれるのは嬉しい。ありがとう。私も……大事な仲間として好きだよ」

 聖の背中に手を回して、元気付けるように2度3度叩く。

「大事な……仲間、か」

 少し寂しそうな声。

「そ。仲間」

「俺も。俺も仲間として大好きだ」

 大好きを強調する、いつもの彼らしい聖に笑いがこみ上げる。何故か抱き合ったまま声を殺して笑いあう二人。ひとしきり笑った後、

「聖、もう離せ」

「やだ。もうちょっと。だってお前、すんげーいい匂いする」

 幸せそうな聖を、怒りで頬を染めた明美が剥ぎ取るように離す。

「張り倒すよ!?」
「あわわ。それは勘弁! ちぇっもうちっとくっついてたかったのにな~残念!」

 惜しい! 聖はパチンと指を鳴らす。

「あわよくばキスを狙ってたんだけどな~」

「……殺すよ? もうお天道様拝めないようにしてやってもいいんだよ?」

 腕をまくり、怒りで目を逆三角形にして聖を壁際まで追い込む。

「ごごご、ごめんちゃい。明美ちゃん怒っちゃいやん」

 目をウルウルさせて聖はかわいこぶりっこする。

「キモいからやめい!」 

 結局、二人の漫才は続き、眠れずに夜を明かしたとか明かさなかったとか。