一定の距離を保ちつつ、様子を伺いながら声をかける。怪しいところがあればすぐに動けるように。

「今更なんでそんなこと聞くんです?」

 逆に聞き返されてしまった。
 その言葉には微妙な変化も感じられない。

「私たちのこと覚えてるの?」

「なにいってるんですか? これまでずっと一緒に……」

 自分に注がれる不信感あらわな六つの目に、言葉をとぎらせる。

「明美さん、聖くん、それに和己くん……ひとみさん」

 それぞれの顔を見ながらはっきりとした口調で答える。最後にひとみを見たときだけは、僅かにその表情が曇った。
 皆の名前を知っていて、いままで一緒に行動していたことも知っている。ということは斎神父自身、ずっと意識はあったっていうこと?
 それなら己の中にいたもう一人に、気付かなかったのだろうか?

 疑問をぶつけると、所々意識が定かではなかったらしいがだいたいは覚えているという。
 どうやらあの悪魔は斎の心とリンクし、さも自分でした行動のように操っていたみたいだった。

「私の中に悪魔が!? 一体いつからいたんでしょうかねー? 全く気付きませんでしたよ! え? いまはもうでていっちゃったんですか? あぁよかった安心しましたー」

 事情を説明してやるとこんな反応が返ってきた。こんな調子だから、簡単に体を乗っとられちゃうんだって。ぼやっとした斎神父に、ため息しかつけなかった。

「では、今はひとみさんの中にその悪魔がいるんですね」

 眠るひとみの脇に膝をつき、胸の前で十字を切り熱心に祈りはじめる。

「なぁ俺に使った聖水、ひとみに使うってのは?」

 いままで黙り込んでいた聖が、唐突に切り出した。
 そうか聖水!
 なんで今まで気づかなかったんだろう!? 私たちには聖がゾンビになることを阻止してくれた、聖水があるじゃない! 手の中に納まるほどの小さな瓶をポケットから取り出し、ひとみの顔の横に座り込んだ。

「だめ……」

「え?」

 周りが静かではないと聞こえないほどの、小さな声。
 聞き間違えるはずなんかない、大事な親友の声だ。

「ひとみっ!?」

 明美の声に聖も和己も駆け寄る。

「だめ……」

 もう一度同じ言葉を繰り返す。