いや、でも、先ほどと違い顔色もいいし、なにより温かい。

 「聖!」

 再びその場に座り直して、期待を込めて呼びかける。和己も緊迫した面持ちで近づいてきた。
 聖のまぶたが震え、やがて生き生き力強い瞳が現れた。二人が見守る側で、自分を取り戻すかのように頭を振りながらゆっくりと上半身を起こす。

「無事生還、だぜ……へへっ」

 弱々しいながらも笑顔を浮かべ、ピースサインをよこす。
 聖が帰ってきた!
 喜びのあまり、考えるよりも先に抱き付いていた。

「のわっ」

「おかえり……!」

「ただいま」

 バランスを崩しながらも明美をしっかりと受け止める聖は、側に立つ和己を見上げた。無事な様子に安堵に表情をやわらかくする和己にも、もう大丈夫だというように笑みを返す。

「まだ死ぬわけにはいかないっしょ?」

「ああ」

 頷いてからあらためて聖に抱き付く明美を見て、一瞬だけ不快そうに眉間にしわを寄せる。明らかにやきもちを妬いている和己を見て聖は意地悪くニヤリと笑った。

「明美ちゃ~ん熱烈な歓迎嬉しいぜぃ! こりゃ~情熱的に応えなきゃいかんでしょ?」

 なれなれしくも明美の肩に手を回して、和己を挑発する。

「図に乗るなっ」

 明美のパンチ発動。

「きゃ~」

 明美に回した手はそのままに、体をのけ反らせる聖。懐かしい痛みに思わず苦笑を浮かべる。

「……元気そうでなによりだ」

 吹き出しそうになったのか、笑みをこらえるように険しい表情で和己は視線をそらした。
 まるでいつもの日常が戻ってきたみたいだった。ただ、その中に可愛いらしく笑う声がない。
 三人の視線が、眠るように目を閉じているひとみに注がれる。