「背中、痛いんじゃないの?」

 僅かな変化に気付いた明美が、顔をしかめる。

「そうでもない」

「うそだ」

「………」

 真剣な眼差しが和己を見上げる。

「生きてるって。痛いっていってよ」

 横たわっている三人の誰一人として目を覚まさない状況下で、唯一意識のある和己には、普通の人間らしさを求めたかった。
 生きていることを実感させてほしかった。

「痛いっていってよ」

「……痛い」

 しぶしぶながらも答える和己に、ようやく明美の顔にほっとしたような笑顔が浮かんだ。

「冷やそう? 湿布取ってくる」

 何かしていないと落ち着かないらしい明美の、やりたいように身を任せることにした。
 立ち上がった明美はさほど時間をとることなく、保健室から戻ってきた。シャツを脱いで背中をあらわにすると、背後で明美が息を飲むのがわかった。

「全体的に赤く腫れあがってる……私なんか庇ったからだ。ごめん……ありがとう」

「謝る必要なんかない。感謝の気持ちだけでいい」

「うん……」

 心臓が移動してしまったんじゃないかと思うほど熱く脈を打っていた背中に湿布が貼られ、ひんやりと気持ちのいい冷たさが広がる。その痛みから解放されるような心地よさに、ホッと息を吐いた。

 痛々しいその背中は自分を守ってくれた証。そう考えると明美の心は熱くなった。嬉しいけれど、これ以上自分の為に怪我なんてしてほしくない。これからは今まで以上に気を配らなければ、自分も自分をとりまく仲間さえも危険にさらしかねない。感謝の気持ちを込めながら和己の背中に湿布を貼った。