「んがっ……」

 大きく開いた聖の口の中に向かって、聖水の瓶を逆さにする。思いきり振った。透明な滴が何滴も落ちていく。気が済むまで口の中に落とし込んでから、口を閉じさせるため、顎を戻した。

「吐き出すんじゃないよっゾンビになんかなったら絶対、許さないんだから……ゾンビになんかなったら袋だたきにしてやるからっ」

 早口でまくし立てる明美の心配そうな顔を見つめながら、聖は眠るように気を失った。

「きっと大丈夫だから……皆を助けられなくてごめん、ね……」

 聖の様子を見届けると、ひとみはそのまま崩れるように倒れた。

「ひとみっ」

 聖の頭をそっと下ろし、不安に駆られた明美は意識のないひとみを抱き起こした。

「ひとみ……」

「しばらく様子を見るしかなさそうだな。まだ油断できる状態じゃない」

 立ち上がった和己の顔が苦痛に歪む。壁に当たったときの衝撃のせいだ。

「大丈夫? 和己まで動けなくなったら、私……」

「そんな顔するな。大丈夫だ」

 不安げな眼差しでこちらを見る明美のそばまで歩み寄ると、その華奢な肩をそっと抱き寄せた。

 操られていた斎神父、危うくゾンビにされるところだった聖、悪の化身を体の中に眠らせたままのひとみ。無事だった和己と明美でさえ、無傷ではなかった。
 皆、身も心もボロボロだった―――。