翌日、学校へ行くと私のクラス、2年1組が人で賑わっていた。

…入りたいんだけどなぁ。

そう。人が出入り口を塞いでしまっているため、教室に入れない。
仕方なく、廊下で棒立ち状態になる。

「何事?」
「例の転入生よ」

ぼそっと呟いたひとりごとに、返事が返ってきた。
声の主は私の横に並ぶ。

「そうなんだぁ。おはよぉ、ユキちゃん」

ユキちゃんは、中学から一緒の大親友である。
本名は雪下 花(ゆきのした はな)。

「おはよ。昨日の今日ですごいわね、転入生。まあ、あのルックスなら人を呼び寄せるのもうなずけるけど」

ユキちゃんは言いながらため息をついた。

というか、そういえばそんな人気者の彼、芹澤 伊月に私は昨日…。

「ユキちゃん、私は昨日初めて壁ドンをされたよ」
「は?」

突然何を言いだすんだ、という目で見られた。

全くです。すみません。

「あんた、現実と妄想がついに混在してきたのかしら」
「違うよ!」

失礼な!
確かに日頃妄想してばっかの私ですけども!

「で、誰にされたの?」

ユキちゃんは、さほど興味なさそうに聞いてきた。
私はユキちゃんの耳に顔を近づける。

「…芹澤 伊月」

名前を聞いてもあまり驚いていないようだった。
まあ、話の流れ的に予想がついていたのだろう。

「あんたたち、知り合いだったわけ」

ユキちゃんは私の顔を見て、そう言った。

そう、問題はそこなのだ。
昨日からの私の課題。

「みたいなんだけど、私覚えてないんだよね」
「そうなの。まあ、そのうち思い出すんじゃない?」

そうだよね、なんて曖昧な返事をする。

しかし、このあと私は後悔することになる。
なんで、もっと真面目に思い出そうとしなかったのか、と。